2017年1月19日 スマートジャパン
http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1701/19/news030.html
3タイプに分かれる地域特化型エネルギー事業
2016年4月の電力小売自由化に伴い、地方・地域にもさまざまな動きが起こっています。事業展開の領域、市場展開エリアを特定の地域に限定してエネルギー事業を展開していこうという会社が増えているのです。
こうした動きには、「地方創生」の機運の高まりとも相まって、さまざまな方面から期待が寄せられていますが、地域特化型エネルギー事業会社には大きく分けて次の3種類があります。
1.本業の顧客囲い込み型
2.自治体主導の地方創生型
3.新規ベンチャー型
1の「本業の顧客囲い込み型」を担うのは、これまで特定の地域で事業展開してきたLPガス会社やケーブルテレビ会社、地域で展開するスーパーマーケットや生協などです。もともと各地域に自分たちのお客さんを持っていて地元顧客との接点があり、2017年4月から始まるガス自由化(都市ガス小売全面自由化)も視野に入れて、既存顧客をターゲットにしているのが特徴です。
2の「自治体主導の地方創生型」は市区町村などの自治体が主導、または民間企業と連携して設立された地域新電力会社です。地域で発電した電気をその地域内で利用する地産地消型を中心としたエネルギー事業で、地域活性化や地方創生を目指す会社がここに含まれます。
3はその他の新規参入ベンチャー系の会社ですが、ここには純粋に地元を盛り上げようという思いを持つ人たちで作られた会社もあれば、市場の可能性に魅力を感じて設立した電力会社など、さまざまな思惑の会社が存在します。
いずれのタイプの会社も企業規模はそれほど大きくなく、少人数で運営している会社が多いのが特徴です。
事例紹介:地域特化型エネルギー事業を展開する会社・団体
関東圏などの電力をたくさん使う地域と異なり、地域特化型の場合は、もともとの電力需要が小さい市場をターゲットとしていることも多いです。そのため、社員5~6人程度の非常に小規模の会社も多く、またほとんどの会社が2016年4月以前には電力販売の実績を持たない会社です。では、具体的にどんな会社・団体があるのか見てみましょう。
1 本業の顧客囲い込み型
もともと地域に根ざしている会社の電力小売業界への参入目的は、会社の種類や業態によって異なりますが、例えばガス会社であれば「既存のお客さんを、外から入ってくるライバル会社に奪われるのを防ぐ」というのが大きな目的の一つです。ガスだけを売っているのでは、電気もガスも両方売りますという会社に負けてしまうからです。
こうした会社は、電力販売で新規のお客さんを獲得していこうというよりは、電力販売を活用して既存の顧客を囲い込んでいこうという戦略で事業展開を行っています。電力事業への参入目的は前述したトレンドワード1「新規事業開発」における企業と基本的に同じですが、地域性の高い既存サービスの強みを最大限に生かし、それを電力販売と組み合わせることで顧客基盤を強固にする事業類型といえます。
北海道の生協組合員に的をしぼった「トドック電力」
本業の顧客囲い込み型の例として、ここでは北海道の「トドック電力」をご紹介します。トドック電力は、全国各地で地域に密着した各種事業を行っている「生協(生活協同組合/コープ)」が主体となって運営する新電力会社の一つです。
コープさっぽろ(株式会社エネコープ)が運営母体となっているトドック電力は、北海道エリア全域をターゲットにした電力提供サービスを行っていますが、その大きな特徴は、再生可能エネルギーで発電されたFIT(注)電気を60%使う「FIT電気メニュー」と、FIT電気よりもさらに割安となる「ベーシック電気メニュー」という2種類のメニューを提供していることです。再生可能エネルギーの普及に協力したいと考える人は「FIT電気メニュー」を、一方、少しでも電気代を安くしたい人は「ベーシック電気メニュー」を選べるというわけです。
また次のような、コープさっぽろグループ提供の各種サービスとのセット利用によるお得な特典も用意されています。
・灯油とのセット割引で電気料金がさらに安くなる
・コープさっぽろの店舗や宅配で使えるポイントがもらえる
・トドックスマホ(コープさっぽろの格安スマホ)とのセット割引で電気料金がさらに安くなる
・電気、灯油、LPガス、宅配システムなどの請求と決済がコープさっぽろでまとめて処理できる
トドック電力以外にも、大阪いずみ市民生活共同組合による電力ブランド「コープでんき」など、地元でコープを利用する人に特化した電気料金プランやサービスを提供する会社・団体が出てきています。
注 FIT:この電気を調達する費用の一部は、電気をご利用の全ての皆さまから集めた賦課金により賄われており、この電気のCO2排出量については、火力発電なども含めた全国平均の電気のCO2排出量を持った電気として扱われます。
2 自治体主導の地方創生型
これは地方の自治体が主体となって、または民間企業と自治体が連携して地域新電力会社などを作りエネルギー事業を行っていこう、というものです。こうした会社には、自治体や地域企業が出資して一つの母体を作って事業展開をしているところが多いようです。そこには、再生エネルギーの生産・販売を中心に、地域でエネルギー循環をさせる「地産地消」を目指すなど、みんなでエネルギーシェアをしていこうという発想もあります。また地域内での「雇用の創出」や「地域内でのお金の循環」といった効果も期待されます。
このような自治体主導の電力会社は全国各地にありますが、例えば、鳥取市と鳥取ガスが設立した「とっとり市民電力」、次に紹介する福岡県みやま市の「みやまスマートエネルギー」などがあります。
日本初! 自治体連携による再エネの融通/みやま市、肝付町の取り組み
自治体主導で地域特化型の電力事業を行っていこう、という取り組みは全国各地で行われていますが、その中でも福岡県みやま市と鹿児島県肝付町の連携による先進的な取り組みが注目を集めています。
その取り組みとは、「両自治体が運営している新電力同士が、電力(再生可能エネルギー)をお互い融通し合い活用していこう」というものです。FITに頼らない再生可能エネルギーの普及を推進し、エネルギーの地産地消による地方創生の実現を目指す自治体主導の新しい取り組みとして期待が高まっています。
みやま市は2015年3月、日本初の自治体による家庭向け電力売買事業会社「みやまスマートエネルギー株式会社」を設立。一方の肝付町は、太陽光・風力・小水力などの発電施設や木質バイオマスによる熱供給施設があり、再生可能エネルギー活用に関わるさまざまな取り組みを推進しています。
将来的には、両者・両地域においてFITに頼らない再エネの普及を進めるため、また地域の再エネを地域で活用するために、自営線網(系統に頼らない自治体所有の電線網)を構築し、「家庭間で再エネを融通することができる地域」「災害時にも電力供給が可能な地域」を作っていく計画とのことです。
3 新規ベンチャー型
ここに属するのは、もともと地元愛の強い人たちが、「地域コミュニティーの中で何か新しいビジネスを始めたい」と考えて数人で立ち上げた会社などのほかに、「電力自由化に乗じて何か新しいベンチャーを興してみよう」と考えて参入してきた会社も多くあります。
後者の多くは、もともと地域にあまり接点のない人々が、全国市場で戦うよりもドミナント戦略(特定の地域内に集中して事業展開すること)に的を絞ろう、という方針で新規事業を始めた、というのが特徴です。こうした会社のなかには、これまで太陽光パネルを販売していた会社や、電力事業とは直接関係のない不動産系の会社なども多く存在します。
会社選びのチェックポイント
これら地域特化型電力会社のビジネスモデルが持つ特徴として、「市場規模がターゲット地域に限定されやすい」ことが挙げられます。そのため、ターゲット地域に受け入れられようと描いた戦略が崩れてしまうと、途端に電力ビジネスの継続が難しくなることも考えられます。
全国など大きな市場をターゲットとしたビジネスモデルであれば、一部の地域では需要を取り込めない場合でも、その他の地域でカバーすることもできますが、地域特化型ではそれが難しいケースが多いでしょう。ターゲット地域の電力需要にもよりますが、狙っている市場自体が小さいこともありますので、電力小売という事業だけではビジネス拡大に限界がある場合もあります。
一方で、特定の地域という明確な販売先が定まっていることは、マーケティング上では利点ともなり得ます。ひとたび地域に住む需要家に受け入れられると、地域のコミュニティー力を生かした経営基盤を築くことができます。そうした活動の中で、電力で地域を活性化させるような多様なビジネスへの展望がひらけます。
ただ、企業によってどういった地域顧客との接点を持っているかはさまざまですので、会社選びにおいては慎重な見極めが必要でしょう。
具体的なチェックポイントとしては以下の通りです。
・会社の規模。これからの事業継続の可能性は?
・経営者が地域貢献に対する明確な理念、強い思いを持っているか
・顧客接点を持つ本業があるか
・資本がその会社単独でなく、自治体からも入っているのか
・実際に電力の供給実績があるのか
また、将来的な安定を求める人には「本業の顧客囲い込み型」が、地域貢献をしたい人には「自治体主導の地方創生型」が、新しいことに自由度を持って挑戦してみたいという人には「新規ベンチャー型」がお勧めと言えるでしょう。
会社選びのポイントとしては、その会社の実像をきちんと調べ把握し、本当に自分の将来を預けられる会社かどうかを見極めることが重要になってきます。
(江田健二)